大学連携・学生受入

学生からの声 - 夏期休暇実習生 -

放射線挙動解析計算コードPHITSを用いた実習
(原子力基礎工学研究センター 環境・放射線科学ディビジョン 放射線挙動解析研究グループ)



永石 直喜さん(熊本大学大学院 保健学教育部 保健専攻)
佐藤 俊輔さん(九州大学大学院 総合理工学府 先端エネルギー理工学専攻)
角田 紫音さん(山形大学大学院 理工学研究科 物理学専攻)
黒田 順也さん(香川高等専門学校 電子情報通信工学専攻)


永石 直喜さん
 (写真中央)

熊本大学大学院 保健学教育部 保健専攻

◇志望理由と実習内容について

放射線治療の照射方法の一つである強度変調回転照射方法(VMAT)をPHITSでシミュレーションすることを目的として、今年の4月からPHITSを研究で使用させていただいていました。VMATに欠かせないMultileaf Collimator のモデリングは終わっていましたが、VMATの計算時間に11日程度かかり、PHITSが他のモンテカルロコード(EGSnrc)や放射線治療計画装置(TPS)に対し、過大評価していました。 そこで、今回の夏期実習では、計算時間の短縮や、PHITSが過大評価する問題を解決できたらと考え、参加させていただきました。

計算時間の短縮には、二次コリメータ(Jaw)をouter regionに設定し、また、カットオフエネルギーを見直すことで、計算時間を7割程度に減らすことができました。さらに、Weight Window Generatorの使い方をマスターすることで、簡単な体系では計算時間を短縮できるようになりました。

◇困難に直面した時にどう対応したか

同じ班の実習生や受入担当の方に相談し、適切なアドバイスをいただくことで解決することができました。実習生の中には、全く自分と研究分野が異なる方もいましたが、PHITSを扱うという点では同じでしたので、実習生に相談することも非常に良い勉強になりました。

◇思い出に残ったこと

研究分野が異なる方々と交流を持てたことは、とても良かったと思います。学校の研究室では、自分の研究と関係がある方々との交流がどうしても多くなりますが、夏期実習では寮の生活も含めて、他分野の方々との交流が多く、たくさんの刺激を受けることができました。

◇特にお伝えしたいことがあれば御自由にどうぞ

私の選んだ広報セクションでのインターンシップでは、周りの方々の御厚意により、フォローや配慮が行き届いた職場だったので、少しでも興味のあるなら勇気をもって飛び込めば、自らのスキルアップだけでなく、良好な人間関係の構築のチャンスであると考えます。





佐藤 俊輔さん
 (写真左)

九州大学大学院 総合理工学府 先端エネルギー理工学専攻

◇志望理由と実習内容について

大学での研究と実習内容に関連性があり、より詳しく自身の研究を理解できると共にPHITS自体をも詳しく学べることを期待して参加しました。私の研究内容は中重核(93Zr等)の生成断面積の実験データとPHITSの結果を比較し原子核反応をモデル化するという内容です。夏期実習では、入射エネルギーが核子あたり数十MeV以下の軽核と軽核(もしくは陽子)の反応による核種生成断面積の実験データを過去の文献から探し、PHITSでの新モデル(フェルミブレイクアップモデル)を用いた計算結果と比較しました。そして、新モデルの有用性と問題点を明確にし、新モデルを評価しました。新モデルは原子核反応において複合核(A?18)形成後の統計崩壊過程を記述するモデルです。PHITSでは、今まで統計崩壊過程をGEMで計算していました。しかし、GEMについては、軽核側で問題があったので、GEMに変わり軽核の統計崩壊を記述するモデルを再考する余地があり、新モデルを検証するに至りました。

◇困難に直面した時にどう対応したか

まず、生じた困難が私自身で解決可能か判断し、解決し難い場合は、担当の方と相談して解決案を模索しました。PHITSで新モデルを動かそうとすると、プログラムにバグが見つかって計算できないことが多々ありました。対処にあまりにも時間がかかりそうなことについては受入担当の方に相談して、自分で解決できそうな内容については試行錯誤を繰り返して解決し、理解を深めて行きました。その都度困難を打開して行った結果、後に生じる問題点が大方予想できるようになり、解決に要する時間が次第に減って行きました。

初めは、PHITSの使用方法が大きな課題でした。使用歴が浅く、自身の研究室と一般的なPHITSの動作手法が違うために最初は慣れない作業に様々な問題が浮上しました。例えば、タリー方法が悪く、上手く原子核反応を観測できなかったことなどです。この場合は、マニュアルを参考にしながらインプットファイルを書き換えて試行錯誤します。それでも上手く行かない場合は、研究グループの方にファイルを見ていただき、どの点がどのように悪いのか教えていただきながら改善して行きました。そうすると、PHITSの全容が大方理解できるようになり、後々出てくるエラーがどこに相当するのか予想できるようになって行きました。

◇思い出に残ったこと

研究を行っていると必ず疑問が生じます。原子力機構には、受入担当の方に限らず、各分野のスペシャリストがいるため、実習中は自身の疑問とそれに対する考察を議論し、多角的な視野で物事を見る経験ができました。研究職を志す修士1年生の私には、将来に関して不透明なことが多いです。しかし、実際に研究職についている研究員の方がどのような経緯で現在に至るか等を聞くことができ、将来の参考になりました。そういう点も含めて実際に職場に訪れ、研究員の方と一緒に研究ができたことはとても良い思い出です。

◇特にお伝えしたいことがあれば御自由にどうぞ

日常よりも研究に没頭できる環境なので、その分、目を見張る程研究が進みます。実習は個々人の裁量で行われるので打ち込めばそれだけ多くのものを得ることができます。職員の方は常に忙しそうですが、質問をすれば嫌な顔一つせずに応えてくれます。どんどん疑問や考えを投げかけて自身のブラッシュアップをしてください。





角田 紫音さん
 (写真右上)

山形大学大学院 理工学研究科 物理学専攻

◇志望理由と実習内容について

現在、毎回位置が変化する呼吸器の位置の把握のため、MRIをかけながら治療を行うことが、現在の重粒子線治療の高精度化につながるのではないかというテーマの研究を私は行っています。その際、高磁場中の粒子線の挙動を把握し、治療の評価を行うために、放射線挙動解析計算コードPHITSを利用したいと考えました。しかし、PHITSの利用経験が少なく、磁場中での解析の仕方など分からないことが多いことなどから、今回主にPHITSの習得と磁場中での挙動の解析を行うことを目的として夏期休暇実習に参加しました。

実習内容としては、まず水ファントムを標的とし、MRIを想定した高磁場中での粒子線挙動の把握を行いました。その際、粒子線挙動に磁場の有無でズレが生じたため、このズレの解析を行いました。今回はまず、真空中に高磁場をかけた時の粒子線挙動を、相対論と非相対論のそれぞれの観点から解析式で表し、その後、PHITSの解析データとの比較を行い、導いた解析式の評価を行いました。今回の実習で得られたものとしては、重粒子線治療の粒子線挙動を把握するのに必要なPHITSの習得と、真空中ではありますが分析的にズレを表現することのできる解析式が挙げられます。

加えて、物質中での粒子線挙動解析は誤差を2%以下に抑えるために解析時間が多くかかるため、まず核反応を考慮せず、且つ、エネルギー分散とクーロン散乱を考慮しない形での粒子線挙動を解析することで、解析時間の削減を行いました。この条件の下、大学に戻ってから実際に物質中の粒子線挙動の解析式を導いていきたいと考えています。

◇困難に直面した時にどう対応したか

今回の実習において一番壁となったのは、磁場中の粒子線の挙動を解析式で導くという点でした。相対論と非相対論それぞれの観点から解析式を導き、評価を行いましたが、PHITSの解析結果と解析式から導かれる結果に大きな違いが生じてしまいました。その際、一人で解析式の誤りを探すのではなく、受入担当の方や他の夏期休暇実習生と相談しながら、一つ一つ細かい点に注目し、確認していくことで、解析式の誤りを見つけることが出来ました。

このほかにも、一人で考えて分からないことなどは、近くにいる夏期休暇実習生に相談をしたり、受入担当の方に話を聞いたりすることで、初めてに近いPHITSの解析ではありましたが、ある程度の成果を得ることができたと思います。

◇思い出に残ったこと

PHITSを使って解析を行うという経験は今回の実習が初めてだったため、多くの点で不安がありました。しかし、受入担当の方が手厚くサポートしてくださったことが一番印象的でした。困難に直面した時はもちろんのこと、それ以外にも進捗状況を随時確認してくださり、また、私の研究に関する論文を探してくださるなど、常に私の実習がより良いものになるようにサポートしてくださいました。加えて、担当の方だけでなく、受入部署の皆さんが、「何かあったら聞いてね」などと声をかけてくださったので、実習の環境がとても整っている印象を受けました。実習面だけでなく、それ以外の面でも私の実習先は、毎日みんなで昼食を食べたので、また、歓迎会や送別会を行ってくださったので、受入部署の方だけでなく、同じ部署に配属された他の夏期休暇実習生の方とも交流することができました。2週間という実習期間をアットホームな環境で有意義のあるものに出来たのではないかと思います。

◇特にお伝えしたいことがあれば御自由にどうぞ

2週間という短い実習期間ではありましたが、PHITS初心者の私を手厚いサポートで支えてくださり、本当にありがとうございました。今回の実習が価値あるものになったのは、放射線挙動解析研究グループの皆さんのおかげです。今回は真空中の解析式を導くことしかできませんでしたが、大学に戻ってから物質中での解析式を求めることで、今回の実習の成果を修士論文につなげていきたいと思います。2週間、本当にありがとうございました。





黒田 順也さん
 (写真右)

香川高等専門学校 電子情報通信工学専攻

◇志望理由と実習内容について

私は現在高レベル放射性廃棄物であるガラス固化体から漏れる放射線の挙動をシミュレーションしており、シミュレーションデータからガラス固化体を模擬した模型からの距離に応じて線量を音でユーザーに知らせる放射線教育教材を作成しています。除染活動や人体影響に対する教育教材はたくさん存在すしますが、地層処分に関する教材は少なく、また、高い線量下で作業を行う場合は時間がかかるほど危険です。そこで、シミュレーションデータから放射線の線量率を示す3次元マップを作り出し、仮想的に放射線のある環境を作ることで、実際に放射線のない環境での作業の訓練や地層処分で使用される高レベル放射性廃棄物がどのような物か、一般の方々にも理解していただくための教育教材の作成に取り組んでいます。そのため、教材を作成するに当たって距離に対する正確な線量データが必要なため、粒子の輸送を計算できるPHITSの使い方などを習得し、使いこなせるようになることで、ガラス固化体から放射線の挙動や距離に対する線量の減衰特性を知って自らの研究を進めたいと考え、夏期休暇実習に参加しました。

今回の実習では、ガラス固化体の体系の作成と距離に対する線量の減衰の特性をタリーすることを目的としました。ガラス固化体は単一線源ではなく、複数のスペクトルを持つ線源なので、スペクトルを調べることやガラス固化体の組成を調べるところから始めました。線量換算係数をかけて任意の単位で出力することなど、自分が使ったことのない機能などを使えるようになり、何とかインプットファイルを作成し、線量の減衰特性をタリーすることができました。今後も、PHITSをより使いこなせるようにし、研究成果に結びつくように努力したいと考えています。

◇困難に直面した時にどう対応したか

今回の実習では、作業に行き詰まったときはインターネットなどで調べたりして、それでも分からない場合はその箇所だけを質問するようにしました。また、質問がしやすい環境で受入担当の方と議論したりすることで解決することができました。丁寧に指導をしてくださった受入部署の方に感謝申し上げます。

◇思い出に残ったこと

担当グループの方々と研究について議論したことが思い出に残っています。自分の学校と違い、しかも、専攻の違う学生と交流することで、考え方の違いなど多くの刺激を受けました。この夏期休暇実習で得た経験は、今後の生活や研究の様々な場面で役立つと思います。



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