大学連携・学生受入

学生からの声 - 夏期休暇実習生 -

福島地区における放射性セシウムの環境動態研究
(福島環境安全センター 環境動態研究グループ)



本多 真紀さん(筑波大学大学院 数理物質科学研究科 化学専攻)
大庭 ゆりかさん(広島大学大学院 総合科学研究科 総合科学専攻)
EIGL Rosmarieさん(広島大学大学院 理学研究科 地球惑星システム学専攻)


本多 真紀さん

筑波大学大学院 数理物質科学研究科 化学専攻

◇志望理由と実習内容について

揮発性のヨウ素129 (129I) は原子燃料サイクル施設の稼働又は原子力発電所の事故によって人為的に自然環境中に放出される放射性核種です。半減期が1570万年と長い129Iは自然環境中に蓄積されていくため、長期的な129Iの環境動態を知ることはサイクル施設稼働に係る環境への影響を評価するのに重要です。分析が難しく、環境中で様々な化学形態をとる129Iの環境動態は複雑で、現状では分からないことが多いです。私は福島第一原子力発電所由来の129Iの環境動態について研究しています。放出源が明確であり、短期間に放出された事故由来の129Iは、長期的な129Iの動態を知るのに有用です。先に述べたように129Iの環境動態は複雑であるため、これを理解するためには対照的な化学的性質をもつ元素、例えば陽イオンになりやすくヨウ素と比べて揮発しにくい放射性セシウム(134Csや137Cs) の動態に関する知見も必要であると考えています。放射性セシウムは土壌との親和性が強く、これは129Iも同じです。しかし、それぞれの核種が土壌に吸着されるメカニズムは異なっていて、面白いです。先行研究の報告によると放射性セシウムは風化黒雲母などの一部の粘土鉱物に保持されることが分かっています。一方で129Iは主に腐食物質に保持される。放射性セシウムを対象とした研究は広く行われているものの、私は知識、分析技術が未熟なために、放射性セシウムの研究を進めるのを躊躇していました。

本実習では福島県内の山地森林に降下した放射性セシウムの環境動態を理解する目的で、10mグリッド間隔で空間線量率及び土壌試料中の放射性セシウム濃度を求め、それらの濃度分布を調査しました。またIPオートラジオグラフィで樹皮、枝葉、鉱物の放射性セシウムの分布を、実態顕微鏡及びSEM-EDXで河川浮遊砂、森林土中の鉱物の表面分析を行いました。急斜面の山地森林でのグリッドサーベイは困難な場面が多く大変でした。しかし、GPSに頼っていたこれまでの調査では得ることができなかった体験ができ、グリッドサーベイの難しさを身をもって知りました。実践に即した内容でSEM等の表面分析装置による鉱物分析技術を学び、習得することができて良かったです。

◇困難に直面した時にどう対応したか

本実習で最も困難だった作業は山地森林でのグリッドサーベイです。地形図、シルバコンパス、ハイスタッフ等の測量機器のみ(GPS、レーザー距離計なし)で、急斜面の山地森林において10 mの間隔をとるのが想像以上に難しく、自分がこういったことは苦手なのだということに気づきました (実際、10 mとれていない地点があることが後で分かった)。測量の経験があった実習生がいらっしゃったので、その方は測量(地点決め)を、私は土壌試料採取と空間線量測定を主に行い、それぞれの長所を生かした役割分担をしました。ただ実際は、原子力機構の職員の方々より多大なるお力添えをいただいたことで、何とかやり遂げられたのだと思います。

◇思い出に残ったこと

やはり、苦労したグリッドサーベイは思い出に残っています。その他に、大熊町のサテライト・ラボは印象深いものでした。サテライト・ラボは分析を行うには過酷な環境であると感じましたが、それ以上にラボの職員の方々からきめ細やかなサポートをしてくださいましたので、スムーズに分析作業を行うことができ、十分な結果が得られました。実習期間中に大変お世話になりましたので、原子力機構の職員の方々とのやりとりが良い思い出となりました。

◇特にお伝えしたいことがあれば御自由にどうぞ

三春は初めて訪れましたが、大変素晴らしい街です。町には歴史ある個性的なお寺が点在しており、滞在期間中はアジサイが美しく咲いておりました。春には桜が美しいようなので、桜を見に訪れるのも良いと思います。町にはゆったりとした時間が流れており、住民の方々は大変親しみやすいです。私たちがお寺巡りをしていると、お店のおじさんが声をかけてくださり、町の歴史やお寺について楽しく教えていただいた出来事もありました。とても嬉しかったです。実習の間は福島の魅力に触れる時間も十分ありますので、是非とも体験していただきたいと思います。





大庭 ゆりかさん

広島大学大学院 総合科学研究科 総合科学専攻

◇志望理由と実習内容について

<志望理由>

私が夏期休暇実習に参加することを志望した理由は、自身の研究の更なる可能性を探るためです。私の博士課程研究のテーマは、福島の森林生態系内における放射性物質の挙動解明であり、現在は、樹木葉への放射性物質蓄積について研究しています。大学での研究活動を通じて、樹木葉での放射性物質の挙動を把握するためには、対象個体の周辺環境における放射性物質の挙動についても理解する必要があると感じていました。そんな時、この実習の存在を知り、また、日頃から、ほかの研究機関ではどの様に福島関連の研究を行っているか、知りたいと思っていたというのもあり、参加を志望しました。

実習では、汚染された山地森林から、河川水系を通じての生活圏への放射性セシウムの流出状況の評価を目的とした、山地森林の水系内での空間線量率や放射性セシウムの空間分布を把握するための野外調査手法、及び環境試料の分析方法や解析方法について学びました。野外調査では、福島県川内村荻地区のスギ人工林内において、林内での調査時に必要な測量に関する技術や、環境試料の採取方法についての注意事項などを、実際に測定を行いながら学びました。その後、福島県大熊町の大熊町公民館サテライトラボで、採取した環境試料の測定前の下処理や、ゲルマニウム半導体検出器を用いたγ線スペクトロメトリーによる放射性セシウム濃度の定量、及びイメージングプレートを用いた放射能分布画像解析を行いました。

様々な要素から構成される林内での放射性セシウム動態の把握は非常に困難であり、多方面からの複数のアプローチを行うことの重要性を改めて実感しました。

◇困難に直面した時にどう対応したか

分からないことあったり悩んだ時は、一人で抱え込まずに側にいる職員の方々や他の実習生に相談したりしました。参加前は、実習に対して膨らむ期待と一緒に、不慣れな現場に行く前のような不安がありました。しかし、実際参加してみると、職員の方々の丁寧で肌理の細かいサポートにより、学ぶことに集中して実習に参加することができました。

◇思い出に残ったこと

どの実習でも学ぶことが多かったのですが、特に印象に残っているのは、大熊町のサテライトラボでの経験です。原発事故の影響が色濃く残る地域にあるサテライトラボでは、様々な制限がある中で、職員の方々が働かれていました。この地域にラボを設置するに至った経緯を教えていただいたり、分析・測定現場の実際を見学させていただいたりした経験は、とても印象深く残っています。津波、そして、原発事故という未曾有の事態にも、臨機応変に対応してきた現場をこの目で見ることができ、とても多くのことを考えさせられました。

◇特にお伝えしたいことがあれば御自由にどうぞ

私の地元は仙台市で、5年前の震災時を地元で経験しました。また、祖母が福島に住んでいるため、祖母を通して原発事故も経験しました。これらの経験から、将来は福島の復興に貢献できる人材になることが目標です。そのため、今回、実際に福島で働かれている職員の方々の”生”の声を聞くことができたことは、本当に良い経験でした。この経験により、自分がどういう人材になりたいか、という具体像を描くことができ、また、福島で働きたいというモチベーションがさらに高まりました。





EIGL Rosmarieさん

広島大学大学院 理学研究科 地球惑星システム学専攻

◇志望理由と実習内容について

I applied for the summer internship, because I am very interested in the behaviour of radionuclides in the environment. In the frame of the ENEP program at Tsukuba University, I had the chance to participate in lectures on the consequences of nuclear accidents on the environment. But I still wanted to learn more on the topic and the internship seemed like a perfect opportunity to do so.

My own research is in the field of environmental radioactivity. I study long-lived anthropogenic radioisotopes in the ocean with the aim of using them as tracers for ocean currents. Even though I had studied a bit on radionuclides in the environment, I still had little knowledge on Cs-137 and the research conducted in the environment of Fukushima.

During the internship, I had the chance to learn a lot of new things. First of all, a grid survey was conducted. This means that sampling points in the forest needed to be found according to a topographical map. Many tools and techniques that were new to me were used. At the sampling points determined by the students, soil samples were taken for analysis of Cs-137 content by Ge semiconductor detector and the air dose rate was measured by survey meter. Additionally, leaves, branches and bark of several trees were sampled for determining the distribution patterns of radionuclides by imaging plate (IP).

For the analysis of samples, the equipment of Okuma laboratory was used, which is situated in the exclusion zone at about 5 km from the Fukushima Daiichi nuclear power plant. Seeing how the people working there were doing excellent scientific work in a difficult environment was a special experience. Everyone was very nice and they gave us an interesting tour of their laboratory.

◇困難に直面した時にどう対応したか

Sometimes I was facing difficulties, because I had the least experience of our group of 3 interns and I was the only non-Japanese native speaker. Fortunately, my colleagues helped me and also the supervisors explained things patiently.

◇思い出に残ったこと

What will remain in my memory is that I had the chance to participate in a forest survey for the first time and use tools and measurement equipment that I had before only read about in books or heard about during lectures. The internship made me understand the importance of research on the distribution of radionuclides in the environment and the efforts necessary in the region. The insight I gained gives me the impression to know a bit better about the challenges the population of Fukushima Prefecture is facing.

◇特にお伝えしたいことがあれば御自由にどうぞ

The internship deepened my understanding for the sampling and analysis of radionuclides from environmental samples. The difficulty of finding the right grid points in the forest showed me the importance of exact work in scientific studies, which I hope to apply also for my own research during my PhD. Also, the hardship of doing measurements of radioactivity and sampling on a steep forest slope made me admire the work that people of JAEA and other institutions are doing in Fukushima Prefecture.



戻る
PageTop