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学生からの声 - 特別研究生 -

103番元素ローレンシウムの揮発性に関する研究
(先端基礎研究センター 重元素核科学研究グループ)



金谷 佑亮さん(茨城大学大学院 理工学研究科 宇宙地球システム科学専攻)


金谷 佑亮さん

茨城大学大学院 理工学研究科 宇宙地球システム科学専攻

◇現在の研究内容について教えてください。

私は103番元素ローレンシウム(Lr)の揮発性を明らかにするため金属表面に対する吸着エンタルピーに着目し、測定方法の開発を行っています。

Lrは周期表においてアクチノイド系列末端に位置する元素です。このLrを含む原子番号100番以降の重・超アクチノイド元素は加速器で人工的に合成することでしか得られず、半減期は短く生成量も少ないという特徴があります。

そのため、一度に扱うことができる原子の数は1個ないし数個であり、従来の実験手法を適用することができず、その化学的・物理的性質はほぼ明らかになっていません。

Lrについては、相対論効果の影響によって最外殻電子軌道が変化し、周期表から予想される電子配置とは異なる可能性が指摘されています。最外殻電子軌道が変化している場合、Lrの化学的性質も大きく変化することが考えられます。

我々の研究グループは一個の原子でも分離分析できるような実験手法として、ガスジェット結合型表面電離イオン源ならびにオンライン同位体分離器(ISOL)を用いることで、Lrの第一イオン化エネルギーの決定に世界で初めて成功しました。その結果、Lr原子の電子配置は強い相対論効果の影響により、周期表から予想される電子配置とは異なることが示唆されました。

表面電離イオン源では高温の金属表面に原子が吸着・脱離する過程において電子のやり取りを行い、イオン化される「表面電離過程」という現象を利用しています。先の実験において、表面電離イオン源内部におけるイオン化挙動には元素ごとの金属表面に対する吸着エンタルピーの違いが影響を与えていることが示唆されました。私はこのイオン化挙動と吸着エンタルピーとの関係に着目しました。

先行研究において、半経験的予測に基づいた計算の結果、Lrの最外殻電子配置が変化している場合、その影響は揮発性に強く表れることが予想されています。吸着エンタルピーの値が既知である様々な元素のイオン化挙動を測定したあとに、Lrのイオン化挙動を測定し、比較することでLrの金属表面に対する吸着エンタルピーを決定できると考えています。実験にはタンデム加速器が必要であり、利用できる機会は限られています。そのため、普段は加速器を用いない予備実験を行い、加速器実験での実験条件の検討などを行っています。

◇研究していて最もやりがいを感じることは何ですか?

自分で設定した目標を達成できた時です。「ローレンシウムの金属表面に対する吸着エンタルピーの測定」という最終的な目標は決まっています。しかし、最終目標に至るには数多くの課題があり、何から解決するべきか見失ってしまうことがあります。

そこで、課題を一つ一つ明文化して優先順位をつけた上で、小さな目標をたくさん作るようにしています。目標に到達するたびに、自分が着実に進んでいることを確認できるとともに、モチベーションの維持につながっていると思います。

◇研究する上で特に「こだわり」があれば教えてください。

考えをまとめるために書き起こしたり、何かしらの計算をするために式を模索したり、そういったメモ書きの段階のものであってもすべての作業を一冊のノートで行い、記録として保存しています。複数の作業を同時に進めているときでも必ず一冊にしています。

一冊だけにすることには大きく二つのメリットがあり、一つはそのノートさえ持ち歩けばいいので管理が非常に楽なこと、もう一つは見直した時に自分の考えを時系列順に追えることです。特に後者に関しては、例えばなぜ自分はこの目標を設定したのか、なぜ自分はこの考察に至ったのか、すべて残してあるため見直しやすくなっていると思います。もちろん最終的には研究ごとに抜き出して別のノートに整理します。

◇金谷さんは学生研究生を経て特別研究生になられ、特別研究生になった後も連携大学院方式による教育研究指導を受けておられますが、原子力機構の者から直接、教育研究指導を受けられるメリットにはどのようなことがありますか?

自分の研究は加速器を用いたものであり、原子力機構では実際に加速器を使い続けてきた方々から直接指導を受けることができます。これは茨城大学では不可能なことで、連携大学院制度で原子力機構に来たからこそできていることだと思います。

特に私が学んでいる超重元素領域に関して原子力機構は日本のパイオニアと言える機関であり、現在の先端研究だけでなく、黎明期の貴重なお話を聞くこともできます。また、大学での教授と学生の関係とは異なる、たくさんの研究者の中に学生として入っていくという環境の違いは大きいと思います。私の所属するグループでは一つの研究テーマを複数人で進めており、それぞれ異なる専門分野に精通した方々の間で交わされる議論は非常に勉強になります。

◇大学での研究内容と原子力機構での特別研究生としての研究内容との関連性について教えてください。

自分は本格的に研究を始める学部4年生のタイミングと同時に学生研究生となり、それ以降現在まで原子力機構を拠点として研究を行っています。そのため、大学での研究内容と原子力機構での研究内容は同じものと考えています。

◇研究していて行き詰った場合、どのようにそれを克服していますか?

周りには知識・経験共に豊富な研究者の方々がいらっしゃるので、アドバイスをいただきます。質問する前には、まず自分で問題点をまとめ直すようにしています。まとめ直す過程で気づいていなかった部分を発見し、質問する前に解決できることも多いです。他には、他分野の人と会話することで自分の研究を見直せることがあります。

分では考えていなかったような視点からの意見をもらうことや、会話することで問題点を単純化して見直すことができます。特に自分は一人で悩み続けてしまうことが多いため、会話の機会は意識するようにしています。

◇将来はどのような研究者になりたいですか?また、研究する上での大きな目標や夢があれば教えてください。

国際的に活動するような研究者になりたいです。重元素核化学研究グループでは国際共同研究の機会が多く、研究員の方は海外の研究機関に赴いて実験をしたり、私自身も日本で行われている共同実験に参加したりしています。

一度に複数の国の人が集まるため、会話はもちろん英語です。最初はなかなかコミュニケーションを取ることができずにいましたが、最近では実験中の簡単な会話の他に、研究以外のことでもメールのやり取りをするようになりました。しかし英語での本格的な議論となるとまだ難しいため、英語の勉強はずっと継続しています。

目標としては、2015年4月に、私の所属するグループの研究員の方が筆頭著者となってNature誌に論文が掲載されました。自分も共著者として名前を載せていただきました。いつか自分が筆頭著者となった論文で掲載されることを目指しています。

◇これから特別研究生に応募しようと思っている方へアドバイスがあればお願いします。

迷っている方にはまず応募してみることを勧めます。大学では難しいような、原子力機構ならではの環境・設備を用いた貴重な経験を積むことができるはずです。



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