大学連携・学生受入

学生からの声 - 夏期休暇実習生 -

放射線グラフト重合を利用した金属イオン分離材料の性能評価
(原子力基礎工学研究センター 原子力化学ディビジョン 分析化学研究グループ)


後藤 聖太さん

千葉大学大学院 工学研究科 共生応用化学専攻

◇志望理由と実習内容について

<極微量分析や放射線計測について学びたかった>

大学の私たちの研究グループは福島第一原発の事故によって漏出した放射性セシウムの除去を目的として、セシウムを選択的に捕捉できるフェロシアン化コバルトを繊維に固定した取り扱いに優れたセシウム吸着材を開発しています。これまでに、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)を用いることでセシウム吸着繊維の高濃度(10-6 g/mLレベル)での吸着性能を評価してきました。しかしながら,セシウム吸着繊維を適用したい汚染水には非放射性及び放射性セシウムを含めて極低濃度(10-12~10-9 g/mLレベル)で溶存していて、実使用に沿った吸着性能の評価はできていなかった。そのような時に貴機構には極低濃度でも定量できる分析装置(例えば,誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)やGe半導体検出器)があることを知った。そこで、夏期休暇実習生の制度を利用して研究室は所有していない高感度な分析装置の使用法や測定結果の解析法について学びたいと思い志望しました。

<実習1:セシウム吸着材のセシウム吸着量の評価を例にとって元素分析装置について学んだ>

セシウム吸着材の吸着性能の評価を例にとり、極低濃度のセシウムを定量できるICP-MSの原理や特徴について学びました。極低濃度のセシウムを正確に定量するためには分析装置の日々の点検だけでなく、不純物が混入しないよう測定試料についても注意をしなければならないという“極低濃度”だからこその分析の難しさも学びました。また、測定した元素や濃度範囲、そして測定試料の状態に応じて適切な分析手法を選択しなければならないという分析の奥深さも学びました。

<実習2:放射性物質の定量方法について実演を交えて学んだ>

放射性物質を取り扱うことのできる管理区域に入り、放射線計測装置の分析操作を見学することで、放射性物質の分析法の基礎を学びました。極微量しかない放射性物質を定量するためには自身が崩壊するに伴い放出する電磁波(放射線)を測定しなければならず、一般的な化学分析手法とは大きく異なるので驚かされました。また、放射性物質によって放出する放射線の種類(例えば,β線やγ線)が異なり、その放射線の種類によっても分析装置や手法が異なることにも驚いた。

◇困難に直面した時にどう対応したか

<すぐに人に聞かずに自ら考えて対処した>

今回の実習で使用した分析装置は極微量の放射性物質を定量するため,普段の研究で使ったことのないものばかりで、使用方法を理解するのに苦労しました。その一つがβ線を放出する放射性物質(例えば、放射性ストロンチウム)を定量するための分析装置、低バックグラウンドベータ線測定装置でした。この装置は試料を自動的かつ連続して測定できる簡便なものでしたが、測定原理を深く理解して分析条件を設定しなければ放射性ストロンチウムの正確な量を求めることはできません。実際に、得られた分析値が予想値と大きく違っていたことがありました。しかしながら、装置の原理に立ち戻り、冷静に原因を考えることで無事に放射性ストロンチウムの正確な量を求めることができました。このような失敗を通して低バックグラウンドベータ線測定装置、そして放射性物質分析について深く理解することができました。

◇思い出に残ったこと

<管理区域に入って,実際に放射能の測定を見学したこと>

私たちの研究グループは放射性物質を除去するための吸着材の研究をしています。これまでの実験では非放射性のセシウムやストロンチウムを測定することで吸着材の性能を評価していました。今回は実際の除去対象となる放射性ストロンチウムの分析方法について学びました。これまで、吸着材の性能を評価する時は東京電力から公開されている福島第一原発周辺の放射性物質の濃度を参考にしていましたが、その濃度を正確に測定するためには多段階の操作を踏む必要があり、測定の大変さを知りました。放射性物質は危険なものですが、取り扱いに注意すればそこまで恐れることはないことも知りました。

<分析研究グループの方々との交流>

私は夏期休暇実習生として分析化学研究グループにお世話になりました。実験をする上での指導はもちろんのこと、実習時間外でも研究室の方々のおかげで楽しい実習生活をすごすことができた。体育館へ一緒に行ってフットサルをしたことや研究室の方々との懇親会は良い思い出です。



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